公開 2026年8月17日/更新 2026年8月18日
アメリカのUAP情報開示
「政府は機体と“非人間の生物学的素材”を回収している」——議会での宣誓証言は現在進行形だ。
「UFO」という言葉が、笑い話の記号でしかなかった時代がある。空飛ぶ円盤、宇宙人、麦畑のミステリーサークル。真面目な顔で口にすれば、それだけで信用を失う類の話だった。 その時代は、もう終わっている。 いまアメリカでは「UAP=未確認異常現象」という、わざと味気なくした行政用語のもとで、政府による情報開示が現在進行形で続いている。しかも声を上げているのは在野の研究家ではない。海軍の現役パイロット、国防総省の元職員、そして上下両院の議員たちである。 発端は2004年11月、カリフォルニア沖だった。 空母ニミッツを中心とする打撃群が訓練海域に展開していたとき、随伴するイージス巡洋艦プリンストンの高性能レーダーが、数日にわたって説明のつかない物体を捉え続けていた。オペレーターの記録によれば、それらは高度2万メートル付近に突然出現し、わずか数秒で海面近くまで降下してくる。その後は低空で滞空し、また消える。当時の航空機の性能で同じ機動をすれば、乗員は加速度で潰れてしまう。 何度も現れるので、艦隊は確認のために戦闘機を向かわせることにした。訓練中だったデビッド・フレイバー中佐と、僚機のアレックス・ディートリッヒ中尉。指定された海域に着いた彼らが最初に見たのは、海面の異変だった。穏やかな海のその一点だけが、白く泡立っている。浅瀬に岩礁があるかのように、水が乱れていた。 そしてその上に、白い物体が浮いていた。 全長は十数メートル。翼が無い。尾翼も無い。回転翼も、排気の熱も、飛行機雲も無い。表面はつるりとして継ぎ目が見えず、白いラムネ菓子——ティックタックのような形をしていた。物体は海面の上でぐらぐらと不規則に揺れており、ピンポン球が空中で跳ねているようだったと後に語られている。 フレイバーが高度を下げて近づくと、物体はこちらの動きに反応した。円を描いて距離を詰めようとした瞬間、物体は加速し、視界から消えた。数秒後、プリンストンのレーダーは、およそ100キロ離れた次の集合地点に物体が現れたことを捉える。その地点は、無線で告げられていなかったはずの場所だった。 交代で飛んだ別の機体が、赤外線カメラでその姿を記録している。後に世界中で再生されることになる映像である。 2014年から2015年にかけては、東海岸沖でも同じことが起きた。バージニア沖の訓練空域に、正体不明の物体が日常的に現れる。ライアン・グレイヴス中尉ら当時のパイロットによれば、遭遇はあまりに日常化し、ニアミスの報告書まで書かれるようになった。彼らはそれらを赤外線カメラで撮り続けた。後に「ジンバル」「ゴーファスト」と呼ばれる映像である。 2017年12月、ニューヨーク・タイムズが報じた。国防総省の内部に、年間2200万ドルの予算を持つ極秘の調査部門が存在していた——「先進航空宇宙脅威識別計画(AATIP)」。予算を通したのはネバダ州選出の上院議員ハリー・リードで、業務の多くは民間の航空宇宙企業に委託されていた。担当者だったルイス・エリゾンドは、組織の消極姿勢に抗議して辞職し、告発する側に回っていた。記事とともに、ニミッツ事件の赤外線映像が世に出る。 2019年、海軍はパイロットが未確認機を報告するための正式な手続きを整えたことを認めた。これは小さいようで大きな一歩だった。それまでは、報告すれば頭がおかしいと思われ、飛行任務から外されかねない空気があった。制度が変わったことで、報告件数は跳ね上がる。 2020年4月、国防総省は3本の映像を「本物であり、機密解除して差し支えない」として自ら公開した。同年、海軍主導の対策班が正式に発足する。 2021年6月、国家情報長官室が議会に予備評価報告書を提出した。2004年以降に集められた144件のうち、正体が判明したのはたった1件、しぼんだ気球だけ。残る143件は「データ不足で分類できない」とされた。さらに報告書は、18件については、既知の航空技術では説明のつかない飛行特性が観測されたと記している。 2022年5月、下院情報特別委員会が公開の公聴会を開いた。UFOをめぐる公開の議会公聴会は、実に半世紀ぶりである。席上、海軍情報部の高官が短い映像を再生した。緑色の暗視映像の中を、球体状の物体がコックピットの脇を通り過ぎていく。正体は分からない、と高官は答えた。同じ年、国防総省は全領域異常解決室(AARO)を新設し、陸海空・宇宙のすべての領域を横断して報告を集約する体制を作る。 決定打は2023年7月26日だった。 下院監視委員会の小委員会。証人席に3人が並んだ。ニミッツ事件のフレイバー、東海岸で遭遇を重ねたグレイヴス、そして元情報機関分析官のデビッド・グルッシュ。 グルッシュは宣誓のうえで証言した。アメリカ政府は数十年にわたり、墜落したUAPの機体を回収し、逆解析する計画を続けている。人間のものではない生物学的素材も回収されている。自分は現物を見たわけではないが、計画に直接関わった複数の人物から証言を得た。そしてその情報を正規の手続きで内部通報したところ、報復を受けた——。 宣誓下での虚偽は偽証罪にあたる。それを承知のうえでの発言だった。議員たちは繰り返し「あなたは今、宣誓している」と念を押し、グルッシュは撤回しなかった。 同じ年、上院ではシューマー院内総務らが、政府の持つUAP関連記録の公開を義務づける法案を提出する。ケネディ暗殺記録の公開法をひな型にしたもので、回収された非人間起源の技術があるなら政府がそれを収用できる、という条項まで含んでいた。だが最終的に成立した国防権限法では、その中核部分が削られている。 国防総省の反論も重ねられた。AAROが2024年に公表した歴史調査報告書は、1945年までさかのぼって記録を洗った結果、地球外の技術を回収した証拠は見つからなかったと結論づけている。噂の多くは、実在した秘密軍事計画の誤認、開発中の航空機の目撃、あるいは機密を守るために意図的に流された偽情報の残響である、と。実際、冷戦期に空軍関係者が民間の研究家に偽の書類を渡していた事例まで、報告書は具体的に挙げている。 それでも公聴会は途切れない。証人が入れ替わりながら証言台に立ち、2025年には、無人機が発射したミサイルが球体状の物体に命中したにもかかわらず、物体はそのまま何事もなく飛び続けた——とされる映像まで、議員によって議会で共有された。 政府の答えは、いまも同じ場所で止まっている。否定はできない。だが証明もできない。 私たちはいま、歴史の教科書に載るのかどうかがまだ決まっていない出来事を、リアルタイムで眺めている。
考察帖
この話について、あなたはどう思いましたか。一覧ページからこの話を開くと、じぶんの考察をメモできます(この端末だけに保存されます)。